ハンバーガーに食らいつくみやはらを見ていたら、体の芯がぞくりと震えた。 昔から、自分が食事をしているの見られるのも、人が食事をするのを見るのも好きじゃなかった。 特別獣らしいから。 やわらかい皮膚に覆い隠された、原始の獣を見透かしてしまえるから。
 食べることと眠ること、自分を生かそうとすることは当たり前に汚いから、俺は孤独に俺を営みたい。 人がそれぞれを永らえさせている姿を無いものだと信じていたい。 なのに、ソースは溢れてみやはらの手のひらにべたりと流れた。
「きたなー……」
「ごめんごめん」
 諦めたように目を背ける俺に、みやはらは構わない。無頓着に生きられたら楽だろう。
 頬杖をついてみやはらから逸らした視線の先、子供がポテトをつまんでいた。 母親が、子供が取り落とした分を拾って口に運ぶ。 見ていられなくなってまた正面を向くと、ちょうどキャベツが落下したところだった。
「音楽、聞いてもいい?」
「ん、いいよ」
 イヤホンを耳に差し込みながら、俺は幸せを考察する。 食べることは必要なことだ。 生きることは尊いことだ。 わかっているのに悟れない。 みやはら、おまえには刻まれているのか。
 モーツァルトの交響曲20番を耳に流し込む。 焦燥が増大していくのを待つ。 正しい人間になりたいとつぶやくことの虚しさをみやはらは知らないと思った。 知らなくていいと思った。







(2008/07/31) けものの呼吸