僕の幼馴染はテロリストに恋をしている。 大きな瞳を見開いてテレビの中の惨劇を見つめていた彼女の唇が、かすかに震えるように動いて、あのひと、とつぶやく。 間違いなく彼女にとって惨劇は惨劇でなく、どちらかと言えば悲劇で、そしてもしかしたら喜劇だった。
 あのひと。彼女がつぶやく。
 あのひと。 黒い服。 ちらりと姿を見せる、あのひと。 卒業アルバムの個人写真。 あのひとの過去。 おとなしくて真面目な学生だった。 僕の昔話。
「あのひと、あなたなのね」
 テロリストは何も言わない。 僕は一度だけ、わかりにくくうなずく。
 そして僕たちは不器用なキスをする。 憤りと絶望と決意と、黒煙と悲鳴と涙と、あらゆる暗やみを知った重い躯で。 その部品でしかない唇で。
 もはやこれが喜劇であることは疑いようもない事実だった。 どちらからともなく穏やかに顔を歪ませて笑い、決意とともに呼吸し、さよならと告げる。 いったいこの部屋以外のどこに、これほどまでに完璧な喜劇があるというのだろう。(いや、ない)







(2007/09/14) テロル