陽のあたらない場所で寝転がって眼をつぶっていると、どこまでも落ちていく感じがする。 ひやりと冷たいアスファルトと、目蓋の裏の暗闇が、私の体をゆっくりと下へ下へと沈めていく。
 ときおり本当に地面が消えてしまったような気さえして、私は心細くてしかたなくなる。 とてもここにいることなどできない。 いっそ消えてしまった方がどんなにか楽だろうか。 心細いというのはきっとそういう気持ちのことだ。
 そんな思いの中で私は、全身で地面を感じようとする。 温度、硬さ、感触。 ひとつずつ断片を拾い集めて、形にしていく。
 そうこうしているうちに地面の感覚をどうにか取り戻して、私はやっと安堵する。 足をつけて立っていられる地面さえあれば、誰に嫌われようと憎まれようと、たとえ無いものとして扱われても私は平気だ。 そのことを再確認するためだけに、私は地面を失うのかもしれない。
 開きそうになる目蓋をきつく閉じると、いつの間にか繋いだ手にも力が入っていた。 どうした? と聞かれて、なんでもないよと答える私の声はとてもそっけなくて味気ない。 かさかさになった唇を舐めて、もっとましな返事を考えたけれど、そんなもの見つかるわけがなかった。
 アスファルトの地面なのに、土の匂いがするのはどうしてだろう。 私たちの好きなもの、クーラーにテレビに携帯電話に洗濯機。 機械をたくさん抱えて、でも庭にはヒマワリを植えるのはどうしてだろう。
 このまま私たち二人の上にタイムマシンが降りてこればいい。 そうしたら世紀の大発明の瞬間に立ち会って、何もかもをめちゃくちゃに壊してやるのに。 私たちは泥の上に直接生きて、ぴかぴか光るものなんてこの世には何一つなくて、きっとそれはとても素敵な世界だ。
「眠くなってきたなぁ」
「そのまま寝ちゃおうよ。起きたら私たち、エジソンの目の前にいるんだよ」
「何だそれ」
 澄春があくびをひとつして、私もそれにつられて大きなあくびをした。
 目が覚めたら、私たちは夕日の中にいるだろう。 ただしそれは今日の夕日で、エジソンが電話や白熱電球を発明した日の夕焼けではないのだ。


(2006/08/14)